Ubuntu Desktopの新機能と魅力
先日紹介したように、最新のLTSリリースとなる「Ubuntu 20.04 LTS」がリリースされました。Ubuntu Desktop
「Ubuntu」には特定の目的に最適化した複数のエディションがあります。そのエディションの中でデスクトップ向けに最適化した「Ubuntu」が「Ubuntu Desktop」です。
おそらく多くのユーザーに最も馴染みのあるエディションではないでしょうか。
他にもサーバー用途向けの「Ubuntu Server」もあり、ユーザーは目的に応じて最適なエディションを選択することができます。
デスクトップに情熱を注いでいる
かつて「Ubuntu 17.10」で「Unity」から「GNOME」へ移行する際、デスクトップへの情熱は変わらず、これからも開発を続けていくとのアナウンスがありました。「GNOME」へ移行してから約2年ほど経ちましたが、それは今でも変わっておらず、「Ubuntu Desktop 20.04 LTS」ではさらなる改良が施され、アップストリームと連携し、パフォーマンスの向上や不具合の修正など、Ubuntu Desktopチームやコミュニティーによる積極的な取り組みが行われました。
重要なプロダクトの1つ
デスクトップのLinuxコミュニティーに広く目を向けた時に、”デスクトップはUbuntu/Canonicalにとって、もはや重要ではない”、との主張や議論を開発者は目にしました。しかしこれは全くの見当違いであり、その主張を否定しています。
改めてその認識を示した事は、「Ubuntu Desktop」や「Xubuntu」といったデスクトップ向けの公式フレーバーを利用するユーザーにとって、大きな安心感につながるでしょう。
Ubuntu Desktopの新機能
「Ubuntu Desktop」の新機能の紹介です。一部の内容は、前回紹介したリリースノートの内容と同じ内容になります。
新しくなったデザイン
「Ubuntu Desktop 20.04 LTS」では、デザインを定義するテーマに「Yaruテーマ」を採用しています。テーマの名称である「Yaru」は、日本語の「やる」から取られたものです。
1.Yaruテーマのアップデート
「Yaruテーマ」がアップデートされ、「Ubuntu」の起動時に表示されるスプラッシュスクリーンからデスクトップまで、「Ubuntu」の見た目が新しくなりました。「Yaruテーマ」は「Ubuntu 18.10」から導入されたテーマであり、「Ubuntu 18.04 LTS」から「Ubuntu 20.04 LTS」へアップグレードするユーザーにとっては、デザインの一新になります。
2.3種類のカラーリング
「Yaruテーマ」には3種類のカラーリングが用意されています。ユーザーは「設定」の「外観」から、それらのカラーリングを選択できます。
明るい
「明るい」を選択すると、以下のようにウィンドウのタイトルバー(CSD)や背景色が明るいカラーリングになります。標準
「標準」を選択すると、以下のようにウィンドウのタイトルバー(CSD)は暗いカラーリングに、背景色が明るいカラーリングになります。暗い
「暗い」を選択すると、以下のようにウィンドウのタイトルバー(CSD)と背景色が暗いカラーリングになります。3.サウンドテーマ
「Yaru」にはサウンドテーマも含まれています。上記でカラーリングを切り替えれば、デフォルトの「Yaru Alert Sound」に戻すことができます。
またサウンドテーマには、ログイン時に再生するサウンドも用意されています。
以下のコマンドを実行すれば、そのサウンドを再生できます。
/usr/bin/canberra-gtk-play --id="desktop-login" --description="GNOME Login"
4.スライドショーとブートスプラッシュ
「Yaruテーマ」は、インストーラーのスライドショーとブートスプラッシュにも反映されています。例えばブートスプラッシュに表示され読み込み中を表すスピナーは、デスクトップのテーマを元にデザインされています。
ディスクを暗号化して「Ubuntu」をインストールした場合、パスフレーズを入力するエリアが表示されますが、この部分もデスクトップのテーマと同じデザインでデザインされています。
5.美しい壁紙
デフォルトの壁紙に加え、新しい壁紙が同梱されています。1枚懐かしい壁紙が含まれていますね。
6.メディアの自動チェック
ライブUSBやライブDVDから「Ubnutu」を起動すると、起動時にそれらのメディアの中身が破損していないか、自動的にチェックが行われるようになりました。メディアのチェックは「Ctrl + C」キーを押せば途中でスキップできます。
メディアの破損によるインストールの失敗は、ユーザーが遭遇する最も共通的な問題であり、起動時に自動的にメディアのチェックを行うことで、この問題を回避することができます。
もしメディアのチェックでエラーが見つかった場合、ディスクイメージのダウンロードに失敗している可能性があります。
ディスクイメージのチェックサムを検証し、もしディスクイメージが破損していた場合は、再度ディスクイメージをダウンロードし直すと良いでしょう。
GNOME 3.36
「Ubuntu Desktop 20.04 LTS」ではデスクトップ環境に「GNOME 3.36」を採用しています。「Ubuntu 17.10」以降「Ubuntu」は、デスクトップ環境に「GNOME」を採用しています。
「Ubuntu」はアップストリームの「GNOME」や幅広いコミュニティーと密接に連携し、「GNOME」の改良作業に取り組んできました。
また「Debian」とも連携し、パッケージを最新の「GNOME」にアップデートしました。
1.洗練されたUX
「GNOME 3.36」では、ユーザーのワークフローを改善する改良と、パフォーマンス及び安定性の向上が盛り込まれています。これにより「Ubuntu」はデスクトップユーザーに、さらに洗練されたUX(使い勝手)を提供します。
2.Do Not Disturb
「Do Not Disturb」は通知を抑制する機能です。「Do Not Disturb」の設定を切り替えるボタンが通知ポップオーバーに追加されました。
3.ログイン画面とロック画面
ログイン画面とロック画面のデザインが改善され、シンプルさと美しさを備えたデザインになりました。また背景にはブラー効果が設定され、全面に表示される情報がより明瞭になっています。
4.サスペンドに素早くアクセス
メニューからPCのサスペンドに素早くアクセスできるようになりました。5.アプリフォルダーの改善
「アプリフォルダー(App Folder)」の管理機能が強化され、アプリをグリッド状に配置したいユーザーにとって嬉しい改善になるでしょう。6.パフォーマンスの向上
以下の修正が行われ、「GNOME」全体のパフォーマンスが向上しました。アクションに対する応答性が向上し、アニメーションもスムーズになり、UXが向上しています。
CPU使用率も低減しています。
- Shell animations are not smooth
- gnome-shell spends a lot of its CPU time re-resolving the same properties [performance]
- High CPU when just moving the mouse
- Sync timelines to hardware vsync
7.その他GNOME 3.36の改善点や変更点
その他「GNOME 3.36」の改善点や変更点は、以下を参照してください。強力なアプリケーション群
「Ubuntu Desktop」は「Google G Suite」や「Microsoft Exchange」と連携し、また、ユーザーがベンダーロックイン(特定の企業が提供するサービスに強く依存すること)を避けられるようにするため、オープン・スタンダードをサポートします。これを実現するため、オープンソースの強力なアプケーション群をデフォルトで提供しています。
1.Firefox
デフォルトのウェブブラウザーに「Firefox 75」を採用しています。「Firefox」はユーザーのプライバシーに焦点をあてているブラウザーです。
2.Thunderbird
デフォルトのメールクライアントに「Thunderbird 68.7.0」を採用しています。「Thunderbird」により、ユーザーは自身のメールにデスクトップから簡単にアクセスできます。
「Thunderbird」は、「Microsoft Exchange」や「Gmail」、「Hotmail」、「POP」、「IMAP」をサポートしています。
3.LibreOffice
デフォルトのオフィススィートに「LibreOffice 6.4」を採用しています。「LibreOffice」を利用すればドキュメントの作成や編集を、簡単に、高速に、そして円滑に行なえます。
メーカー製PCのサポート強化
「Ubuntu」は企業や政府、公的部門、そして教育など幅広い分野で活用されています。様々な分野から要求されるソフトウェア面とハードウェア面の要件を「Ubuntu」プリインストールPCで満たせるようにするため、「Canonical」は「Dell」や「HP」、「Lenovo」と密に連携した取り組みを行っています。(OEMパートナー)
「Ubuntu Desktop」をプリインストールしたPCを販売するメーカーもあれば、「Ubuntu Desktop」をサポートしているメーカーもあります。
1.認定したハードウェアにそのままUbuntuをインストール可能
「Ubuntu Desktop 20.04 LTS」からは「Canonical」が認定したPCに対し、そのまま「Ubuntu Desktop」をインストールできるようになりました。そのメーカー経由で提供される「Ubuntu Desktop」ではなく、一般的にリリースされた「Ubuntu Desktop」をPCにインストールできるようになった、ということです。
2.PC固有の機能を自動的に利用できるようにする
認定されたハードウェアに一般向けにリリースされた「Ubuntu Desktop」をインストールすると、そのPC固有の機能が利用できるように、自動的に必要なインストールと設定を行います。PCと共に提供される工場出荷時のイメージと同様に、PC固有の機能を利用できます。
3.ブートスプラッシュにメーカーのロゴを表示して欲しいとの要望
「Ubuntu」起動時にブートスプラッシュにメーカーのロゴが表示されるようになりました。この機能は、メーカーから要望された機能です。
またメーカーが将来搭載するであろう「DMIC」と「SoundWire」をサポートするため、「Ubuntu Desktop 20.04 LTS」ではパッチをあてた「BlueZ 5.53」や「PulseAudio 14.0」そして「Sound Open Firmware」を提供しています。
4.生体認証デバイスのサポート改善
今や多くのデバイスで指紋リーダーが搭載されており、ユーザーセッションのロック解除に指紋リーダーが利用されています。近年「Linux」における指紋リーダーのような生体認証デバイスは十分にサポートされておらず、ユーザーはそれらのデバイスを十分に活用できない状況です。
「Canonical」はこの状況を改善するため「libfprint」と連携し、ハードウェアベンダーが新しい生体認証デバイスをもっと簡単にサポートできるようにするため、バックエンドとUIの改良・開発を行っています。
UIに関しては近日登場予定です。
5.X11+HiDPI環境で、より細やかな拡大率の指定が可能に
「Wayland」と同様に「X11」環境でもより細やかな拡大率の指定が可能になりました。「HiDPI」環境において、100%から200%間の拡大率を25%ごとに「設定」から指定できるようになりました。
元々この機能は「Ubuntu 19.04」ですでに実装されていた機能でしたが、UI上から設定を変更できるようにはなっていませんでした。
この機能は「HiDPI」ディスプレイを搭載したPCで大いに役立つでしょう。
ゲーム環境
「Ubuntu」ではすでに32bit版(x86/i386)のリリースは行っておらず、OSとしての「Ubuntu 32bit版」はありません。しかし32bit版のライブラリーを要求する「Steam」「Wine」「Lutris」を動作させるため、これらのアプリが要求する32bit版のライブラリーを引き続き提供しています。
また同様にクラッシクゲームやアプリも提供しています。
1.Steamパッケージのアップデート
「Ubuntu Desktop 20.04 LTS」向けに「Steam」パッケージがアップデートされました。また様々なコントローラーやVRデバイスのサポートも行われました。
2.GameModeをデフォルトでインストール
「Ubuntu Desktop 20.04 LTS」では、「GameMode」がデフォルトでインストールされます。「GameMode」はCPUの省電力モードを抑制し、ゲームのI/Oやプロセスの優先度を高くするなど、パフォーマンスを優先する設定を行うデーモン(サービス)です。
これによりゲームがスムーズに動作するようになり、Linuxゲームユーザーの体験が改善されます。
現在「GameMode」では、以下の設定を調整します。
- CPUガバナー
- I/O優先度
- プロセス優先度
- カーネルスケジューラー(SCHED_ISO)
- スクリーンセーバーの抑制
- GPUをパフォーマンスモードに(NVIDIA/AMD)
- GPUのオーバークロック(NVIDIA)
- カスタムスクリプト
ゲームを実行する時に一時的に各種設定を行います。
3.ハイブリッドグラフィックス
CPUなどに実装されている内蔵GPUと外付けGPU(Discrete GPU)が搭載されているPCでは、「GNOME Shell」から外付けGPUの使用を指定して、アプリを起動できるようになりました。4.nvencとVA-APIをサポートしたFFmpeg
ライブストリーミングによる映像配信や動画の編集では、「nvenc」と「VA-API」をサポートした「FFmpeg」を利用できます。「GPU(ドライバー)」にこれらを利用できる機能が備わっていれば、デコードやエンコード、フィルタリング処理時にCPUにかかる負荷を大きく軽減できます。
「OBS Studio」や「Shotcut」といった「nvenc」に対応したアプリを利用すれば、ハードウェアエンコーディング機能を利用できます。
ZFSとzsys
「Ubuntu 19.10」で「Ubuntu Desktop」を「ZFS」でフォーマットされたファイルシステム上にインストールする試験的な機能がサポートされました。1.ZFSのアップデート
「Ubuntu 20.04 LTS」では「ZFS」がアップデートされ、ハードウェアを利用した暗号化や、デバイスの削除、プールのトリムといった新機能や、パフォーマンスの改善は行われています。まだ試験的な段階ですが、これらの機能と「zsys」を連携させ、「ZFS」のUXの改良に取り組んでいます。
2.zsys
「zsys」は「Ubuntu/Canonical」が開発するサービスです。「ZFS」と「Ubuntu」間に位置するソフトウェアで、「ZFS」の使い勝手を向上させるソフトウェアです。
例えばユーザーがソフトウェアのインストールやアップデートを行う時に、「zsys」は自動的に現在のシステムのスナップショットを作成します。
もしソフトウェアのインストールやアップデートがシステムに悪影響を及ぼした場合、ユーザーはこのスナップショットを利用して、システムを以前の状態にロールバックできます。
これらのスナップショットは「GRUB」のブートメニューに表示されます。
これは将来的にシステムのバックアップ方法の1つとなるでしょう。
Ubuntu 18.04 LTSユーザーから見た改善点
将来的に「Ubuntu 18.04 LTS」から「Ubuntu 20.04 LTS」へ直接アップグレードできるようになります。1.二年分の進化
「Ubuntu 20.04 LTS」には2年分の進化が詰まっています。そのため「Ubuntu 18.04 LTS」ユーザーから見ると、様々な改善や変更が加えられています。
多くのユーザーはLTSリリースを好んでおり、LTSからLTSへアップグレードして「Ubuntu」を利用しているユーザーも多いでしょう。
特に注目すべき点を紹介します。
2.VeraCryptのサポート
「GNOME Disks(ディスク)」でストレージをフォーマットする際、オープンソースのディスク暗号化である「VeraCrypt」を利用できます。3.パフォーマンスの向上
デスクトップズームとウィンドウプレビューのパフォーマンスが向上しました。4.自動的なクラッシュレポートの送信
不具合報告ツールは、アプリケーション意図しない動作(クラッシュ)をした時に、ユーザーの作業を邪魔することなく自動的にクラッシュレポートを送信できるようになりました。5.マイクやスピーカーデバイスの管理が簡単に
「GNOME Settings(設定)」の「サウンド」パネルでは、もっと簡単にマイクやスピーカーデバイスを管理できるようになりました。6.デスクトップファイルの検索機能改善
「Tracker」がデフォルトでインストールされるようになり、デスクトップファイルの検索機能改善されました。7.アプリケーション切り替え機能の改善
「Alt+Tab」によるアプリの切り替え機能や、ドックのウィンドウプレビュー機能が改善され、もっと直感的にアプリを切り替えられるようになりました。8.Safe Graphics Modeの追加
意図しないエラーが発生した時にデバッグできるよう、「Safe Graphics Mode」が追加されました。9.パフォーマンスの向上
デスクトップのパフォーマンスが向上しました。CPU使用率の低減、スクロール時の入力遅延の低減、そして多くのGPUで出力遅延が低減しています。
つまり応答性が良くなりました。
また高く滑らかなフレームレートを一貫して維持するようになりました。