Ubuntu で採用する Linux kernel のバージョン
Ubuntu で採用する Linux kernel の採用方針を紹介します。新しいガイドライン
新しいガイドラインを見ていきます。LTS リリースと通常リリースの Ubuntu について
Ubuntu には2年に一度リリースされる長期サポート版の Ubuntu と、短いサポート期間の通常リリース版の Ubuntu があります。例えば Ubuntu 24.04 LTS は長期サポート版の LTS リリースですし、Ubuntu 24.10 は9ヶ月サポートが提供される通常リリース版の Ubuntu です。
LTS リリースの Ubuntu は長期サポート版ということもあり、通常リリース版よりも安定性や長期サポートが必要なユーザーや及び企業で積極的に採用されています。
そのため LTS リリースと通常リリースの Ubuntu で、若干方針に違いが出ます。
Open Merge Window
Open Merge Window はアップストリームの Linux kernel で採用されている開発過程の一つです。Feature Freeze の後に Open Merge Window が開かれた場合は、Ubuntu のリリースに間に合わないと判断されます。
つまりこの段階の Linux kernel は、Ubuntu の Linux kernel として採用対象になりません。
Tight Release
Tight Release の状況下では、アップストリームの Linux kernel はリリース手前の品質ですが、そのリリース日と Ubuntu のリリース日が近いことを意味します。スケジュールの確保が難しい
そのため Dependent Component の対応が不十分になる可能性があります。またアップストリームの RC版 Linux kernel を通じてテストを行っても、Ubuntu リリース時に何かしら問題を抱える可能性もあります。
ガイドライン
この状況下で CKT は、以下のガイドラインに基づき Ubuntu 向け Linux kernel をリリースします。- 通常どおり Kernel SRU プロセスが実施されます。
- CKT は GAリリースとして Generic kernel をリリースします。
- Variant kernel は、状況次第で後になってリリースされる可能性があります。
ただし通常リリースの Ubuntu と LTS リリースの Ubuntu で方針が若干異なります。
通常リリースの Ubuntu では
通常リリースの Ubuntu では、Ubuntu のリリースに Stabilized kernel が間に合わない場合に備え、Bridge kernel が用意されます。この Bridge kernel には、前バージョン Ubuntu の Stabilized kernel が採用されます。
前バージョン Ubuntu が LTS リリースの Ubuntu だった場合、 Bridge kernel にその LTS リリースの Stabilized kernel(GA kernel)がそのまま採用されます。
同様に前バージョン Ubuntu が 通常リリース版 Ubuntu だった場合も、その前バージョンの Stabilized kernel が採用されますが、この Bridge kernel は Stabilized kernel が登場するまでサポート期間が延長されます。
セキュリティーアップデートは限定的になる
上記いずれの場合でも、数週間程度で Stabilized kernel が登場する予定であるため、それを見越して Bridge kernel のセキュリティーアップデートは限定的になります。緊急及び重要な脆弱性がセキュリティーアップデートの対象になる可能性がありますが、必ずしもすべての緊急及び重要な脆弱性がセキュリティーアップデートの対象になるとは限りません。
インストーラーと Bridge kernel
Ubuntu のリリース時に Stabilized kernel が間に合わない場合は Bridge kernel が採用されますが、この時にインストーラーは Bridge kernel 経由で起動することになります。言い換えると Bridge kernel でライブセッションを起動することになります。
もちろんユーザーが Ubuntu をインストールする時に、すでに Stabilized kernel がリリースされている可能性もあります。
インストーラーはその状況に応じて、インストールするカーネルを選択することになります。
ディスクイメージの再作成は行わない
Ubuntu リリース後に Stabilized kernel がリリースされた場合でも、その Stabilized kernel を含むディスクイメージの再作成は行われません。安定するまで HWE カーネルとしてリリースされない
LTS リリースの Ubuntu には HWE という取り組みがあり、LTS 以降にリリースされた Ubuntu の Stabilized kernel を利用できます。最終的に次の LTS リリースの Ubuntu の Stabilized kernel まで利用できるようになります。
例えば Ubuntu 22.04.2 LTS では、Ubuntu 22.10 の Stabilized kernel を利用できるようになっています。
この Stabilized kernel のことを HWE カーネルと呼んでいます。
HWE 対象になるカーネルはそのカーネルが Stabilized kernel になるまで、HWE カーネルとしてリリースされません。
LTS リリースの Ubuntu では
LTS リリースの Ubuntu では、そもそも Bridge kernel は用意されません。ただしリリース済みのカーネルに対して Linux Kernel Livepatch サービスは通常通り継続的に提供されます。
Ubuntu のアップグレードについて
Stabilized kernel が登場するまで、Ubuntu のアップグレードは保留されます。また LTS リリースの Ubuntu にはポイントリリースが用意されていますが、最初のポイントリリース(Ubuntu XX.04.1 LTS)には Stabilized kernel が含まれた状態でディスクイメージがリリースされます。
Unstable Release
Unstable Release は、Tight Release よりもさらにスケジュールが厳しくなります。この状況下でアップストリームの Linux kernel は RC(リリース候補版) の段階のままであることが想定され、最終的な段階よりも手前の段階であると考えられます。
最小限のサポートのみを提供
RC なので新機能の追加はなく不具合の修正が主な作業になるはずですが、実際には影響範囲の広い修正が行われたり、既存機能が削除されてしまう可能性もあります。この段階のアップストリームの Linux kernel は流動的であり、このカーネルを対象にテストしたり、このカーネルをベースに Variant kernel を作成しても意味がありません。
そのため CKT は最小限のサポートのみを提供します。
ガイドライン
この状況下で CKT は Tight Release のガイドラインに加え、以下のガイドラインに基づき Ubuntu 向け Linux kernel をリリースします。- 標準的な SRU は実施されませんが、CKT が有益であると判断した場合や CKT の裁量でアップデートを提供する可能性はあります。
- アップストリームの各RC版 Linux kernel のリリースに追従するように、Ubuntu 向け Linux kernel のリリースを Stabilized kernel になるまで実施する可能性があります。
- ベースカーネルが安定するまで、Variant kernel はリリースされません。
またベースカーネルが安定するまで、Variant kernel をベースにしたイメージの提供は延期されます。 - Ubuntu のリリース時に RC版ベースの Generic kernel が提供され、Variant kernel は可能な範囲で提供されます。
- Dependent Component は安定していないベースカーネル上でも可能な範囲で対応作業が行われますが、CKT の判断により Stabilized kernel になるまでリリースされない方針です。
- カーネルが Stabilized kernel になるまでそのカーネルはサポートの対象外ですが、報告された問題やサポート要求に対して CKT は可能な範囲で対応します。
ただしその場合でも Stabilized kernelが登場するまで調査が保留される可能性があります。 - Stabilized kernelが登場するまで Linux Kernel Livepatch は提供されません。
Ubuntu 24.10 ではどうなるのか
では上記を踏まえ、Ubuntu 24.10 ではどうなるのか見てみましょう。次に続きます。