Ubuntu Desktopの長期的な目標
今後の成長を見据えた「Ubuntu Desktop」の長期的な目標と「Ubuntu Desktop 23.10」での取り組みが以下で紹介されています。Ubuntu Desktopの現状
Ubuntu Desktop開発チームは、「Ubuntu Desktop」の現状を以下のように捉えています。1. 600万を超えるアクティブユーザーを抱えている
「Ubuntu Desktop」は600万を超えるアクティブユーザー数がいます。この数値は「Ubuntu Desktop」を利用しているデバイスのアップデート情報に基づく数値であり、ファイアウォールやプロキシを経由して「Ubuntu Desktop」をアップデートしている企業での利用は数値から除外されています。
ですので実際はもっと多くのユーザーを抱えていることになります。
2. 開発者が最も好むLinuxディストリビューションである
2023年5月に9万人を超える開発者を対象に実施された年次調査が以下で公開されています。年次調査では開発に利用している言語やツール、OSなどの統計情報が公開されており、開発者や業界の動向を把握することができます。
OSの調査項目では8.7万件以上の回答が寄せられており、Linuxディストリビューションの中で「Ubuntu Desktop」は開発者が最も好むLinuxディストリビューションに選ばれています。
3. ゲーミングプラットフォームとしても高い人気を得ている
Steamではユーザーが利用しているOSやハードウェアの統計情報を公開しています。この調査は月次調査であり、2023年7月の調査結果を以下で確認することできます。
この統計情報によると、デスクトップ向けLinuxディストリビューションの中で「Ubuntu Desktop」はゲーミングプラットフォームとしても活用されています。
ちなみにローリングリリースである「Arch Linux」と異なり「Ubuntu Desktop」は、バージョンベースでリリースされているため、集計もバージョンごとに行われています。
上記には「Ubuntu 22.04.2 LTS」がランクインしていますが、Otherにはそれ以外の「Ubuntu Desktop」のバージョンも含まれているでしょう。
デスクトップOSを取り巻く状況の変化
Ubuntu Desktop開発チームは、デスクトップOSを取り巻く状況の変化を以下のように認識しています。1. より盤石なセキュリティー技術への注目
MFA(Multi-Factor Authentication/多要素認証)を活用したユーザー認証精度の向上や、セキュアブートによる悪意あるソフトウェアからの保護、ハードウェアと連携した機密情報の暗号化、「Ubuntu Core」のような不変的なOSの活用によるセキュリティーの向上への注目が高まっています。2. クラウドへの急速な移行
ユーザーデータ及びエンタープライズ向け管理システムがクラウドへ急速に移行しています。3. クラウドデスクトップの利便性向上
クラウドデスクトップの利便性が向上してきており、ハイエンドなソフトウェアエンジニアリング(開発や研究)の分野でさえも、クラウドデスクトップの利便性が向上しています。4. 組み込みAIなど試験的な技術の導入
「Windows Copilot」のような組み込みAIといった未来を感じさせる試験的な技術の導入に関心が寄せられています。5. 空間コンピューティング
「Apple Vision Pro」のような現実空間と仮想空間を繋ぐシステム及び概念が登場しています。状況の変化に追従していく
これらを踏まえ「Ubuntu」が掲げている使命とオープンソース開発コミュニティーが掲げている多様な価値観と連携しながら、「Ubuntu」ならではの方法で状況の変化に追従し、ユーザーのニーズに応えていく必要があります。ちなみに「Ubuntu」が掲げている使命は以下を参照してください。
Ubuntu Desktopチームの強化
これに応えていくためには相応のリソースが必要になります。Ubuntu Desktopチームは組織基盤を強化できるように、そして新しい技術やユースケース(使われ方)の調査や、成長するユーザーベースに応えられるようにするため、日々急速に成長し続けています。
目標とその背景
目標には必ずその動機となる背景があるのですが、目標を理解してもらうためには、この背景の共有が必要になります。Ubuntu Desktop Installerの例
例えば「Ubuntu 23.04」で新しい「Ubuntu Desktop Installer」が導入されました。この「Ubuntu Desktop Installer」は以前から「Ubuntu Server」で採用されている「Subiquity」がバックエンドに採用されています。
つまりOSのインストーラーが統合されています。
インストーラーを統合することで開発リソースを集中させることができ、開発側に大きな利点をもたらします。
しかし長期的な目標で見てみると、それが目標ではありません。
ユーザーによって「Ubuntu Desktop」の利用方法は異なります。
「Ubuntu Desktop」を開発に利用するユーザーもいれば、ゲームに利用するユーザーもいます。
動画制作やDTMに利用するユーザーもいますし、エンタープライズの分野では一般的なユーザーとは異なる使い方をするでしょう。
つまり「Ubuntu Desktop」の活用方法は様々です。
この取り組みに関する長期的な目標は、各々のユーザーが求める最適な環境やソフトウェア構成を、ユーザーのインストール作業の過程で簡単に構築できるようすることです。
新しいインストーラーの導入はこの目標を実現するための一環であり、他の仕組みと連携させてこの目標を実現していくことになります。
コミュニティーと目標の共有や検討を行う
すでに何度か紹介していますがUbuntu Desktopチームは、長期的な目標とそれに基づく新機能や変更を共有及び検討する場をコミュニティーに設け、そこで得られたフィードバックをUbuntuの開発方針に反映する取り組みを行っています。Ubuntu Desktopの価値を高めるために
「Ubuntu Desktop」は何百万人ものユーザーが様々な目的で利用しています。多様な使われ方をされているため、特定の層やユースケースに絞り込んで目標を最適化することは困難です。
そのままではいつまで経っても目標を立てられなくなり、デスクトップOSを取り巻く変化に追従できなくなってしまいます。
そこで新しい機能や変化の導入に際し、多くのユーザーから共感を得られる線引きが必要になります。
1. いつでもそこにUbuntu Desktopがあること(選択)
世の中には様々なハードウェアがあります。一般的なPCもあれば「Raspberry Pi」のようなARMデバイスもあります。
加えてDellやHP、Lenovoといった「Ubuntu Desktop」プリインストールPCを販売しているメーカもあります。
さらにクラウドもあります。
ユーザーが「Ubuntu Desktop」を使いたいと思った時に、そこに「Ubuntu Desktop」があること、つまり選択肢を提供することが大切です。
「Ubuntu Desktop」を利用できる状況を拡大及び充実させていくことが「Ubuntu Desktop」の価値に繋がります。
2. 優れた使い勝手を提供すること(品質)
いわゆる品質ですが、品質とはソフトウェアの品質だけでなく、使い勝手などUI/UXの品質も含まれています。新しいユーザーには直感的で分かりやすい使い勝手を提供し、パワーユーザーには効果的及び効率的な使い勝手を提供する必要があります。
双方にとって一貫した使い勝手を提供するため「Ubuntu Desktop 23.10」では、インストール後の環境構築を容易にする仕組みの導入が進められています。
この仕組みにはインストーラーだけでなく、新しい「App Store」の導入も含まれています。
3. 安心と安全を提供すること(サポート)
ユーザーが安心して「Ubuntu Desktop」を利用できるように、「Ubuntu Desktop」に関するドキュメントが整備され、トラブルシューティングが容易であり、そしてセキュリティーアップデートによる安全を提供する必要があります。セキュリティーメンテンナンスでは個人でも商用でも利用できる「Ubuntu Pro」サポートサービスが「Canonical」から提供されています。
「Ubuntu Pro」ではエンタープライズレベルのサポートを提供しています。
「Ubuntu Desktop 23.10」では「Subiquity」になった「Ubuntu Desktop Installer」により、「cloud-init」を利用してデスクトップイメージをカスタマイズし、自動インストールできるようになります。
4. 楽しんで気に入ってもらうこと
デスクトップOSは製品の開発や制作に利用されるだけでなく、ゲームや動画の視聴などエンターテイメントの分野でも利用され、カジュアルユーザーが趣味で利用できるOSでもあります。タッチパッドが期待通りに動作し、プレイしたいゲームがちゃんと動作し、利用したいアプリのインストールが簡単であり、そして直感的に利用できるワークスペースを提供する必要があります。
「Ubuntu Desktop 23.10」で導入予定の新しい「App Store」では、従来よりももっと簡単にユーザーがアプリを見つけやすくなり、ユーザーが必要とするアプリの管理が容易になります。
また「Ubuntu Desktop 23.10」ではアプリのウィンドウをタイリングする機能も提供されます。
5. デスクトップの性能を上げること(パフォーマンス)
ゲームや開発などユーザーの幅広いワークフローの生産性を向上させるため、様々なハードウェアで軽くて応答性の高いパフォーマンスを提供する必要があります。特にバッテリーを搭載したデバイスでは、バッテリーを効果的に活用し消費量を抑えることが大切です。
「Ubuntu Desktop 23.10」ではIntelと連携し、Snap版Chromiumで動画のエンコードとデコードにハードウェアアクセラレーションを利用できるように取り組んでおり、安定版おリリースに向けて作業が進められています。
6. ユーザーがプライバシーを管理できること
ユーザーは自身のデータを自分で制御したいと考えています。「Ubuntu Desktop」を利用する時に、ユーザーが自身のデータを制御できるようにすること、そしてそれを管理する仕組みを提供すること、加えてプライバシーの設定状況を把握できる仕組みを提供する必要があります。
「Ubuntu Desktop 23.10」では、アプリがファイルアクセスなどの追加パーミッションを要求した時に、ユーザーにその許可を確認する仕組みが検討されています。
スマホのアプリでよく見かける仕組みです。
7. デフォルトで安全な仕組みを提供すること
「Ubuntu Desktop」は一般的なユーザーや企業など幅広い分野で利用されるOSです。それぞれで求めるセキュリティー要件は異なりますが、その双方が期待するセキュリティー要件を満たせるような安全性を提供する必要があります。
Ubuntuが推奨するセキュリティー構成はユーザーにとって理解しやすい内容であり、利用時に各種セキュリティー設定が利用できる状態でなければなりません。
「Ubuntu Desktop 23.10」では、ハードウェアベースのディスクの完全な暗号化機能をインストーラーにオプションとして組み込む実装が進められています。
またPPAの認証鍵の管理方法が変更され、セキュリティーが向上します。
8. 隔たりのない使い勝手を提供すること
合理的な理由に基づきデスクトップとサーバーで一貫性のある使い勝手を提供する必要があります。デスクトップでのシステムの設定や構成方法と、サーバーでのシステムの設定や構成方法が異なる場合、ユーザーはそれぞれでそれぞれの方法を学ぶ必要が出てきます。
この方法を統合し隔たりのない使い勝手を提供することが必要です。
「Ubuntu Desktop 23.10」では、ネットワークの構成を設定する「netplan」が導入されます。
これによりデスクトップとサーバーで「netplan」によるネットワーク構成が可能になります。
未来に向けて取り組んでいく
今回紹介した内容が全てではありませんし、ユーザーによっては今一理解しにくい内容も含まれているかもしれません。「Ubuntu Desktop」は幅広い分野で様々な使われ方をするため、ユーザーにとって関心がない分野での出来事や期待、そして要求や要望は、理解しにくいものです。
知らないと誰もそんなことは期待していないと思ってしまったり、自身の要望が大半のユーザーの要望であると思ってしまうこともあるでしょう。
さていずれの目標も先々を見据えた長期目標であり、難易度の高い目標が示されています。
これらの目標の実現に向け多くの時間がかかるでしょうし、状況の変化によっては目標を達成できない可能性もあります。
しかしこうして開発チームの目標や方針を公表及び共有することで、「Ubuntu Desktop」が今後辿っていくであろう道筋の一端が見えてくるのではないでしょうか。
「Ubuntu Desktop」はコミュニティー主体のOSであり、これらの目標の実現に向けユーザーからの協力や開発への参加が必要不可欠です。
ぜひコミュニティーに参加し、テストやフィードバック、そして開発に参加して頂ければと思います。