Ubuntu で採用する Linux kernel のバージョン
Ubuntu で採用する Linux kernel の採用方針を紹介します。気になる Linux kernel のバージョン
新バージョンの Ubuntu のリリースが近づくに連れ、その新バージョンの Ubuntu で採用される Linux kernel のバージョンはいくつのなるのか。それはユーザーにとって関心事の一つだと思います。
Linux kernel のバージョンが新しくなれば、サポートされるハードウェアが拡大されるだけでなく、特定のユースケースやプラットフォームで活用可能な新機能が追加されることもあります。
とにかく最新版の Linux kernel を採用して欲しいと思うユーザーは多いかと思います。
しかし必ずしも Ubuntu に最新版の Linux kernel が採用されるとは限りません。
誰が決めているのか
Ubuntu で採用する Linux kernel のバージョンは、Canonical のカーネルチーム(以下 CKT)が決定しており、CKT は Ubuntu で利用可能な Linux kernel に対して様々な責務を負います。CKT は Ubuntu で提供する Linux kernel に関連する全ての事柄を対象にしており、広範な作業を行っています。
Ubuntu の各バージョンで提供する Linux kernel のバージョン選択はもちろんのこと、Linux kernel の準備やリリース、そして継続的なメンテンナンスまで、CKT がそのすべての道筋を担当しています。
常に最新版でええやん
そう思うユーザーは多いでしょう。しかし Ubuntu はカジュアルユーザーやコンシューマーの分野で活用されるだけでなく、様々な企業や産業などエンタープライズの分野でも活用されている OS です。
そのため気軽に最新版の Linux kernel を採用し続ければ良い、というわけには行きません。
また Linux kernel そのものは Ubnutu や Canonical が開発しているソフトウェアではなく、アップストリームで開発されているソフトウェアです。
そもそも組織及びプロジェクトが異なるため、それぞれのスケジュール方針も異なります。
ではまずアップストリームのスケジュール方針から見てみましょう。
アップストリームのスケジュール方針
アップストリームのスケジュール方針はどうなっているのでしょうか。寛容なスケジューリング
アップストリームのリリースプロセスでは、割と寛容なスケジューリングを行っています。つまりリリーススケジュールに余裕や幅をもたせています。
2ヶ月から3ヶ月の間隔で次期メジャーバージョンの Linux kernel をリリースする方針です。
ただ実際のリリーススケジュールには流動性があり、不具合などリリースを妨げるような問題が発生した場合は、その修正に合わせてリリーススケジュールが調整されることもあるでしょう。
Ubuntu のスケジュール方針
次に Ubuntu のスケジュール方針はどうなっているのでしょうか。この日に出すと言ったら出す
Ubuntu は半年に一度リリースされます。
Ubuntu のスケジュールは半年以上前に決められ、その中で Ubuntu のリリース日も決定されます。
例えば Ubuntu 24.10 のリリース日は、2024年10月10日と定められています。
Linux kernel と対照的に Ubuntu は、リリーススケジュールに厳格に沿います。
そのため致命的な問題など余程のことがなければ、リリーススケジュール通りに Ubuntu がリリースされます。
リリーススケジュールが異なる
というわけで上記のように Ubuntu と Linux kernel のスケジュール方針は異なっています。そんな都合よくリリースされない
Ubuntu の都合に合わせて Linux kernel がリリースされることはありません。そのため Ubuntu と Linux kernel のリリース日がたまたま同じ日になったり、あるいはお互い似たような日にリリースされることもあります。
Linux kernel はリリースできると判断された時にリリースされる性質を持つため、準備が整っていないと判断された場合は、予定されていたスケジュールよりも遅くなるケースもあります。
CKT の経験則
CKT の経験に基づくと、アップストリームでリリースされた Linux kernel が Ubuntu で安定した Linux kernel として採用できると判断できるようになるまで、アップストリームで Linux kernel がリリースされてから約1ヶ月かかります。そのため Ubuntu の都合と照らし合わせると、アップストリームのリリース日が Ubuntu のリリース日の4週間前以内になるだろうと想定できる場合、その Linux kernel の採用に問題が発生します。
仮に Ubuntu のリリース日がスケジューリングされてから数週間後にリリースされると想定できたとしても、リリース日に流動性があるため採用に問題が発生することすらあります。
Ubuntu 24.10 がまさにそう
Ubuntu 24.10 がまさにこの状況です。アップストリームの Linux kernel 6.11 のリリース日と Ubuntu 24.10 のリリース日が同じか近い日になることが予想されています。
さてここで CKT はどうするのでしょうか。
- すでにリリース済みの Linux kernel 6.10 を採用する?
- Linux kernel 6.11 を採用して Linux kernel 6.11 の安定性や品質評価の期間を短くし、Ubuntu 24.10 のリリースに間に合わせる?
- Ubuntu 24.10 のリリース日を遅らせて、 Linux kernel 6.11 を採用する?
今までの様子見アプローチ
今まで CKT は Linux kernel のバージョンを選択する際、いわゆる様子見しながらバージョンを選択する保守的なアプローチをとってきました。暫定的なバージョンの選択
Linux kernel の安定性が十分かどうか判断するのに約1ヶ月かかりますから、それを勘案しほぼ確実に Linux kernel のリリース日が Ubuntu のスケジュールに合うと判断できた時は、その Linux kernel のバージョンを暫定的なバージョンとして採用します。特に問題がなければそのまま採用バージョンとして採用されます。
余裕があれば、さらに新しいバージョンを選択
もし Ubuntu のスケジュールに余裕があると判断できた場合は、さらに新しいバージョンが選択されることもあります。安定性は高まるが・・・
このアプローチは Ubuntu に搭載する Linux kernel の安定性確保に注力できるアプローチですが、その一方でどうしても最新版ではないバージョンの Linux kernel が採用されてしまうケースもあります。そのため新しいハードウェアを搭載しているユーザーや、ベンダーが提供した実装が含まれていない Linux kernel のバージョンが選択されてしまった時に、そのユーザーやベンダーから不評を買っていました。
ええよ、ほな最新版で行こうや
というわけで CKT から大胆で新しい方針が出されました。ではその新しい方針を見てみましょう。
以下に続きます。